シンプルな情熱
映画は7月に公開されてからすぐに観た。
近頃映画館に足を運ぶのはホラーやB級作品のためが多く、
純粋な恋愛ものを観るのはかなり久しぶり。
この作品は予告を観た瞬間、
絶対に映画館で観ようと決めていた!
(フライング・ピケッツのOnly Youが頭から離れない)
私は恋愛に前のめりになってしまうタイプなので、
この映画の細部を(Google Mapで彼の地元を散策したり、
彼の住む国へ飛行機で突発的に旅してみたり、
彼と会う直前には身支度以外の何も手につかなかったり)
自分が今までに経験したいくつかの恋愛と重ねてしまって、
なんともセンチメンタルな気分になってしまった。
まさに主人公のフランス女性と同じく
「こんなに人を好きになる経験を持たず、
人々は何に人生の喜びを見出して要るのだろう」
なんて浮かれポンチなことをよく思っていた。
映画の見どころはセルゲイ・ポルーニンの素晴らしきタトゥー。
情熱的なセックスシーンが大半を占めるこの映画の中で、
きっと皆想像上で彼のタトゥーに指を這わせていただろう。
股間にモザイクが入らないのも、安っぽくなくて良い。
館内が9割女性客だったのも頷ける…
レティシアが医者にとろける笑顔で「oui」と応える
シーンも抜群に良かったな。
映画の内容が気に入ったので、
原作となったアニー・エルノーの小説も読んだ。
小説の体をとってはいるが、
感情的な比喩や無駄な表現を一切取っ払った
"シンプル"すぎるほどの告白文。
1992年に発表された小説なのでディティールが古い。
映画では電話をスマホに変えたり、現代風にアレンジを加えている。
しかし時代を超えて今なお色褪せない
「恋愛へののめり込み方」に思わず笑ってしまう。
"雑誌を開いて真っ先に星占いを読"んだり、
"自分の物語がその中に含まれているに違いないと思う映画"があると
その映画を観たくなる、というのは恋する女性あるあるなのでは?
アニー・エルノーはこの小説に共感する女性たち、
「これはまさに私の物語です」という人たちに
「まさにそういう小説でありたいと思い書いた」と
何かのインタビューで語っている。
日本人女性の何割くらいの人が「これは私の物語だ!」
と思えるのだろうか、気になるな。
そして当時は内容ゆえに物議を醸した小説だったそうな。
シングルマザーの中年女性が自分の子供より
妻のある年下の男性への性欲にかまけて
恋にのめり込んだ事実を
簡素な文体で淡々と書き連ねるというのは
いささかセンセーショナルだったのだろう。
小説は数時間で読み終えらるので
フライング・ピケッツのOnly Youに浸りながら
是非読んでみてほしい。